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神戸地方裁判所 昭和32年(行モ)1号 決定

申立人 難波忠男

被申立人 和田村選挙管理委員会

主文

被申立人が昭和三十一年十二月二十七日和選管告示第一五号をもつてなした和田村々長解職投票に関する告示の効力は当裁判所昭和三十二年(行)第一号村長解職請求者署名無効確認請求事件の判決が確定するに至るまでこれを停止する。

理由

申立代理人は、主文同旨の決定を求める旨申立て、その理由とするところの要旨は次の通りである。

(一)  申立人は、兵庫県氷上郡和田村々長であるところ、訴外田中武明、同石塚元治は右村長解職請求の代表者となつて、同村有権者総数三、八一六名の三分の一以上の連署を得たとして該請求署名簿を被申立人に提出し、昭和三十一年十二月四日被申立人は右署名簿中一、四三八名の署名を有効と決定し、その旨の証明をして、これを関係人の縦覧に供したので、申立人は、右縦覧期間内である同年同月十一日、右署名中末尾記載の請求者を含む六二五名の自署でない無効署名があること等を理由に異議申立をしたところ、被申立人は同年同月二十五日右のうち一部を無効署名と認めて、有効署名数を一、三二七名と修正したが爾余の部分については右申立は理由がないものとして却下の決定をなし、右解職請求の署名簿は法定必要数の署名を充たしているとの見解で、同年同月二十七日前記解職賛否投票期日を昭和三十二年一月十六日とする旨和選管告示第一五号をもつて告示をなすに至つた。

(二)  そこで申立人は、被申立人を相手方とし、出訴期間内である昭和三十二年一月四日、神戸地方裁判所に前項異議申立却下決定の取消訴訟を提起し、現に同裁判所同年(行)第一号村長解職請求者署名無効確認請求事件として係属中である。

(三)  しかる処、前記署名簿は次のような無効署名を包含し、その法定必要署名数を欠如するから無効であり、従つて、本件解職請求手続はすべて違法である。

すなわち、

(1)  解職請求者石塚春男外六二四名の署名は自署されたものではないから無効であり、うち四〇六名分に関し自署の有無につき未審査であることは、被申立人の自認しているところである。

(2)  更に、村会議員である訴外池田猛太郎外一名は公務員であり乍ら、本件署名蒐集に従事しているが、右は、公務員は解職請求代表者たり得ないとする法規の趣旨に反するから、同人等の蒐集した署名簿全体が無効である。

(3)  又、本件解職請求簿には「重大なる失政」として七項目を例示しているが、これらはすべて虚構の事実に基くもので、右解職請求は、兵庫県が町村合併促進法に基き和田村と山南町の合併を要請したのに反対する者等の策動であり、本件署名簿の署名はすべて詐欺に基く無効のものである。

(四)  なおまた、地方自治法第七四条の二所定の各不変期間は解職請求者の署名の効力に関する異議方法を規整しており、斯かる建前からすれば、右異議の対象たる署名の効力が未確定の現段階で、被申立人において一方的に解職請求手続の執行をなし得ないものと解するのが妥当であり、従つて被申立人の右執行々為は前記法条の趣旨に反して違法である。

(五)  以上の諸理由により前記却下決定及びその一環をなす、本件解職賛否投票の告示の違法は、本訴の結果を待つまでもなく顕著なるものと謂えるので、右実情下において前記賛否投票が実施された場合は、申立人及び全村民に対し精神的物質的に償うことのできない損害を蒙らしめるのみならず、村政は混乱の極に達する虞れがありこれを避けるため右投票の実施を、前記本案訴訟の判決確定に至るまで停止する緊急やむを得ない必要性があるので本件申立に及んだ次第である。

よつて、判断するに、申立人の主張する申立理由(一)の事実は、申立人提出の疎明資料によつてこれを認めることができ、且つ、同(二)の事実は当裁判所に明らかなところである。

そして、本件解職請求署名の法定所要数は一、二七二名であり、本件署名簿のうち被申立人の認定した有効署名数は一、三二七名であるから、申立人の主張する無効署名のうち、少なくとも五六名の署名が無効と確定された場合には、右署名簿は法定所要数の署名を欠く無効なものとなつて本件解職請求手続は違法となるところ申立人提出の疎明資料によると、末尾記載各番号の氏名(疎第八号証小畠太郎兵衛外四名作成の証明書添付の署名者氏名)のうち既に被申立人において無効と決定した者(二八五号、四〇二号、七六六号、八八二号、九〇九号、九三〇号)及び疎第三号証審査結果通知添付の修正しない者の氏名と些少でも一致しない者並びに九四七号、一、〇〇五号、一、三六九号の者を除き少なくとも請求者六一名の署名は、自署されたものでないことを一応推測できるから、結局右署名簿は法定署名数を欠く無効なもので、これを有効署名であると認めた被申立人の前記異議申立却下決定及びその後行手続である本件賛否投票の告示にはこの点において重大なる瑕疵が存するものと解することができる。

右のような事情のもとにおいて、前記告示に基き、その解職の賛否投票が実施されて賛成投票が過半数に達したような場合には申立人は和田村々長たる職を失い、将来本訴において勝訴判決をうけても償うことのできない損害を蒙ることが明かである。そして、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に所謂処分の執行とは、取消訴訟の対象である行政処分(本件解職請求に関する異議申立却下決定)のみならず、これに伴う事後における一連の執行手続(本件賛否投票の告示)を包含するものと解すべきであるから、前記損害の発生を避けるため、本案訴訟の判決確定に至るまで数日後(本月十六日)に切迫した右賛否投票の告示の効力を停止する緊急の必要があるものと認められるので、申立人の本件申立を相当と認めて主文の通り決定する。

(裁判官 村上喜夫 尾鼻輝次 大西一夫)

(別紙省略)

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